だからこそ、人は恋をすると、自分が本当に相手を愛しているのだという感情に酔ってしまうのだ。
そして現実には本当に相手を愛していないと知っている。奥の奥のいちばん奥にある感情は、自分が本当に相手を愛していないと知っている。
そして人びとは、その感情に目をそむけようとする。その感情に気づかれないようにする。人生のむなしさを忘れるために、人生のむなしさに気づかないため
に、人びとは刺激を求め、騒音の中に出ていくように、自らの偽りの愛に目をそむけるために、愛を語り、愛を書きつらねる。
手紙を書き、愛を語る中で、自分の“本当の愛”に酔っているのである。
本当に人を愛した人間は、もっと落ちついているにちがいない。人間が本当に人を愛するなどということは、ほとんどあり得ないことかもしれない。本当の愛
とは、それこそ人間ばなれしているのだ。
本当の愛は、自分が本当に愛しているのだということを告げなくても、それに耐えられるということである。