心理的健康について 第11回 [2001/02/01]

第4章  神経症者の要求の特徴2(1)

 前回までに続いて今回はカレン・ホルナイの言う神経症的要求の第二の特徴である自己中心性について考えてみたい。
 先ず神経症にまではなっては居ないが自己中心的な人の例を考えてみよう。講演会の司会をした人に「講演会うまくいった?」と聞いたとする。自己中心的か自己中心的でないかは、その時に「失敗しちゃった」と答える人と、「講演会はうまく行ったけども、私の司会は失敗しちゃった」と答える人の違いである。
 自己中心的な人が講演会の司会をすると、講演会そのものには関心がない。講演会に関心があるとは、例えば聴衆はどう反応しているかを見ていることである。講師をしっかりと見ているということである。講師が不愉快そうな顔をしたか、どうか。無理をして笑っているのではないか等を見ているかどうかである。
 自己中心的な人の関心は、自分がパーフェクトに振る舞えたか、振る舞えなかったにしかない。自分がパーフェクトに振る舞えないと皆から責められると思い込んでいる。講師が機嫌を害すると自分の司会がまずいからと解釈する。そして完全に振る舞えなかった自分を責める。しかし講師をしっかりと見ていない。講師のふと見せる表情、ふとした仕草を見ていない。
 講演に行くと時々「私はこの講演会のためにこうして苦労して取り仕切っているのよ」ということを話す人がいる。「先生、私って凄いでしょ」と自分を売り込んでいるのである。相手が「忙しいのにきてくれた」と、相手の事情は考えない。
 講演に呼んで「先生のような方が来てくれて、光栄だ」と騒ぐ人もいる。しかし帰りの新幹線は「頼んでいた」禁煙の席をとっていない。つまり相手を呼んだ自分に酔っているのであって、相手に対する思いやりはない。自己中心的な人はつねにこうして一人よがりである。

 この程度はいいが、神経症的自己中心性となるとどうなるか。それは悩みに表れる。悩んでいる人はたいてい「自分一人だけが」悩んでいると思っている。それが悩んでいる人の特徴である。つまり自己中心性である。そしてさらに自分の陥っている悩みが最大の悩みと思っている。
 失恋で悩んでいる人は、失恋が人生の悩みの最大のことだと思っている。経済的なことで悩んでいる人に「何で恋人がいるのに貴方は悩んでいるのか?」と不思議に思う程である。
 悩んでいる人は自分のことしか考えていないから、相手がニコニコしていると悩んでいないと思う。神経症者は「かたち」でしかものを考えない。表面的にしか物事を見ていない。
 自分が相談しようとしている相手はもしかすると現在の自分よりももっと大変な問題を抱えているかもしれない等ということは想像すらしない。



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加藤諦三、加藤諦三研究室