心理的健康について 第6回 [2000/12/5]

第2章 人生で大切なのはバランス(2)

 小さい頃人から蔑視されたり、無視されて心理的に傷ついた人はよく[見返してやる]と思い、自分の実際の能力を無視して、非現実的なほど偉くなろうとする。そして自分で自分を素晴しいと評価できない人間になってしまう。人に「偉い」と言ってもらわないと自分を心理的に維持できない人間になってしまう。つまり人に見せるための自分だけで自分のための自分がなくなってしまう。心理的な根無し草である。そこでお金や名誉を求めて無理して頑張りすぎて、生活のバランスを崩していく。
 そんな復讐心に捕われた人は仕事の成功以外のことに意味を感じられない。そして仕事の成功を通して人に優越しようとする。そこで仕事をしない時間が無駄に感じられる。自然の中で風の音を聴いているなどというのは、彼にとってはまったく無駄な時間なのである。
 有名な精神家医カレン・ホルナイはこの様なタイプを「傲慢な復讐的タイプ」 「註、the arrogant-vindictive type」と名付けている。彼女はこのタイプはあらゆる神経症者の中で最も「驚異的な働き手」 「註、a prodigious worker」であると書いている。典型的なのがかっての日本の猛烈サラリーマン等であろう。これらの人達は人生で最も大切なバランスを崩している。彼等がいかに家庭を無視して働いたかを考えて見れば分かるであろう。 
 「驚異的な働き手」にとって「万能の人」になることが、みずからの傷ついた自尊心の要求である。この内面の要求を実現するために人は不幸な一生を送る結果になる。その視点からしか物事をみられなくなる。だから働きすぎて健康を害する人も出てくるのである。健康の秘訣、それは愚かな偽りのプライドを捨てることなのだ。そうすれば自然とバランスのとれた生活になる。
「驚異的な働き手」の特徴はささやかな幸せを知らないことである。「人の幸福は、大きな喜びや楽しみの問題というよりむしろ、ささやかなものの問題かもしれない。」とフレデリク・スカーベク伯は述べている。これは私が訳したポーランドの哲学者タタルケヴィッチと言う人の本の中の言葉である。さらにタタルケヴィッチ次のように述べている。
 [一条の冬の日差し。村の喧騒を遠く離れて、静かな晩に、何にもじゃまされることのない瞑想。田舎の館で、ろうそくがともされる前のたそがれ時。、、あるいは、友人と共に囲む夕げや独特のムードのある歌。あるいは、ただ、家族全員が灯のもとに集う宵のひととき。、]。心理的に健康な人は日常生活のなかにささやかな喜びを見い出している。



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加藤諦三、加藤諦三研究室